ベッドから手を伸ばし、灯りを付けると、まだ1時間も眠っていない事に気づいた。
やっとの思いで、身体を起こすと風呂場へと向かい、シャワーの蛇口を回す。
熱いお湯を浴びていると、少し気持ちが和らいできた。
「ここのところ、次から次へと色んな事があり過ぎたからな・・・」
シャワーの水滴が卓の身体で弾けた。
喉の渇きに耐えられない・・・
風呂から出ると、ミネラルウォータを一気に飲み干し、ソファーに倒れるように腰掛けた。
「お客様との距離・・・大切だ」
いつだったか、田中が教えてくれた言葉が甦る。
勿論、卓にはお客様のプライベートな部分に触れているといった認識はない。
運送業であると同時に、サービス業でもある。
無線業務が充実している会社である以上、乗客のひとりひとりと、如何に真摯に向き合うか・・・この点を外すと、営業頻度は間違いなく低下する。
ここ数日の、自分の出方が間違っていたとは思えない。
しかし、余りにも入魂し過ぎた・・・と、かえりみている。
要は気持ちの問題かとも思う。
「もう少し、自分に人間的なキャパがあればなあ・・・」と感じる。
ここまで考えていたら、気持ちは随分落ち着いてきた。
ただ、気になったのは夢の中で里奈とその兄、富山に言われた言葉である。
「会いたい時に会える・・・それが恋人・・・」
「こんな生活リズムで、女一人、幸せに出来るのか!」
卓はふ~っと溜息を付くと、窓に目をやった。
カーテンから透けて見える外は、しらじらと明けはじめている。