「どうも、申し訳ありません!」
興奮気味の母親が、少年にかけより、深々と頭を下げた。
「今、入って行く後姿が見えたものですから・・・」
「こちらのタクシードライバーの方が、連れて来てくださったんですよ」
警官が卓を紹介するや「すみませんでした・・・ありがとうございました」と母親は卓に向かって申し訳なさそうに詫びた。
「いえいえ、大丈夫です・・・良かったな!お母さんに会えて・・・」
卓が声を掛けると少年は、涙目をこすりながら、うなずいた。
「じゃあ、私はこれで・・・」
卓が軽く会釈をして、交番を出てしばらく行くと、「すみません!乗せて頂けませんか」と、後ろから声がする。
振り向くと先程の、少年と母親が、立っていた。
「イイですよ!どちらまで!」
聞くと、駅から20分程、離れた隣の街である。
そのまま3人はエレベーターで下に降り、止めてあった卓の営業車両へと乗り込んだ。
「ホントにすみませんでした」
「いえいえ、余りにも大きなリュックを背負って泣いていたものですから、つい気になりまして・・・」
答える卓に「そんなに、泣いていなかったよ・・・」と、口をとがらせた少年が呟いた。
「ごめん、ごめん!そうだな・・・そんなに泣いていなかったな!」
少年を気遣う卓に、母親は座席に座りながらも会釈している。
二人の話からすると、母親の実家に向かう途中らしかった。
なんでも母親の実家に一人で住んでいる父親が、身体の調子を崩しているので、今日から泊まり込みで、面倒を看るらしい・・・
卓は余計な事かも知れないと思いつつ「自分の母親も祖母の介護をしているんですけど、老老介護という状態で・・・」と話した。
「大変ですね・・・お母様・・・」
少年の母親が答える。
「じゃあ、学校はどうされるんですか!?」
尋ねる卓に「ええ、当分、実家の前のバス停から隣町まで、バスに乗って通う事になります」
「朝の満員バスですか・・・」
「ええ・・・」
しかし、少年は「平気だよ!!バスで、学校に行ってみたかった・・・」と、目を輝かせている。
少年の父親は、東北復興の為、岩手に出張中で、建設会社に勤めている技師であることが、二人のその後の会話から分かった。
「介護に復興か・・・」
卓は、心の中でフッと溜息を洩らした。