「あれっ!?どうしたんだろう?」そう思いながらも、卓は構内を出た。
が、足早に通り過ぎる人たちが、これだけいても、誰も少年に声を掛けない。
「なんか気になるなあ~」卓はそのままハンドルを右に切り、再び構内へと入った。
やはり少年は、同じ場所に立ったまま先より激しく、しゃくりあげる様に泣いている。
構内の脇に車を止め、男の子に近づいた。
「坊や!どうした?」腰をかがめ、子供と同じ目線になって聞いてみたが、
子供は、なにも言わず泣き続けている。
「おじさん、悪い人じゃあないよ・・・お母さんに、はぐれたの?」
そう聞くと、子供はやっと卓を見た。
その日は学校の創立記念日で、お休みだが、わけあって祖父の家に向かう途中だという。
「あのね、それでね・・・お母さんと、ここで会う約束してたの・・・でもね、もう1時間経つのに、こないし携帯も、つながらないの・・・」
しゃくりあげながら、子供がやっとそう言うのを聞いた卓は、「分かった・・・エスカレーターの上に交番があるから一緒に行こう・・・こんな所で、いつまでも泣いてちゃあダメ!さあ、付いておいで・・・」
少年は、やっと涙を拭きながら歩き始めた。
「リュック、おじさんが、持ってあげようか?」
卓の後ろを少し離れて歩いて来る少年は、首を横に振った。
「あ~警戒してるんだ」
卓は、そう思った。